ホーム/AIを使ってよい時期
学生と新社会人には、
生成AIを使わせない
小学生から大学生まで、そして社会に出たばかりの新社会人には、生成AIの利用を禁止すべきです。
基礎を身につける時期に、楽をさせてはいけないからです。
代表取締役 田村吉章
考えが変わりました
以前は、「判断できる人なら、生成AIを使ってよい」と考えていました。 2024年と2025年には、前橋東高校のDXハイスクールで、生徒にAIの活用を教えました。
2026年9月24日、日本経済新聞に掲載された酒井邦嘉・東京大学教授の論考 「AI使用の全面禁止が必要」を読み、考えを改めました。
変わったのは、生徒にAIを使わせるかどうかです。基礎を学ぶことの大切さは、変わっていません。
人は、楽な方に流される
人は誰でも、楽な方を選びます。若い人だけではありません。
基礎を身につける時期に「AIに丸投げすれば、とりあえず何とかなる」ことを覚えると、 その先で多くのことを身につけなければならないときに、その力がありません。
- 中国の中高生約2.7万人を30か月追った研究では、AIを使った生徒の宿題の点数は18%上がり、6か月後の試験の点数は20%下がりました。
- 答えを出さずに考えさせる設計のAIを、中学生に2年間使わせた研究では、一度は試した生徒が96%いました。一方、間違えたときにAIを使った生徒は17%でした。
良い使い方を用意しても、生徒はそれを選びません。
出典:Strömberg, Lei, Wu(2026)CEPR Discussion Paper 21577、Oreopoulos, Low(2026)NBER Working Paper 35620。 詳しくは研究のまとめにあります。
「使い方を限ればよい」には、答えがあります
ヒントだけを出すAIを使った高校生には、悪影響がほとんど見られなかった研究もあります。
けれども、上の中学生の研究が示すとおり、生徒は良い使い方を続けません。 「アイデア出しだけなら」「校正だけなら」と線を引いても、その線は言い訳になります。 だから、線引きではなく、一律に禁止します。
出典:Bastani他(2025)PNAS 122(26)。トルコの高校生約1,000人
文部科学省のガイドラインとの関係
文部科学省は2024年12月、「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」を公表しました。 ガイドラインは、学校での生成AIの利活用を「一律に禁止したり義務付けたりするものではない」とし、 条件を整えれば、生徒が学習で使うことも認めています。フィネットの考えは、この点で異なります。
ただし、出発点は同じです。ガイドラインは、生徒がAIを使うには、出力の 「真偽や適切性を的確に判断できることが前提」だとしています。 そのうえで、情報活用能力が育っていない段階で自由に使わせることを、不適切な例に挙げています。
違いは、この前提を満たせるかどうかの見極めにあります。ガイドラインは、見極めを学校現場に委ねています。 フィネットは、基礎を身につける時期の生徒は、この前提を満たせないと考えます。 一人一人を場面ごとに見極め続けることも、現実には困難です。だから、一律に禁止します。
ガイドラインの公表後、生徒の学力への長期の影響を示す研究が相次いで発表されました。 ガイドライン自身も、必要に応じて改訂することを想定しています。
ガイドラインは、使うかどうかを「各学校現場の実態に即して」判断するものとしています。 学校や教育委員会が、生徒に使わせないと決めることも、その判断の一つです。
出典:文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」2024年12月26日
家でも効かせる ― 宿題の出し方と評価の仕方
学校で禁止しても、生徒は家でAIを使えます。 生徒がAIに頼るのは、授業中ではなく、家で一人で取り組む宿題です。 宿題の完成度で評価すると、AIに任せるほうが得になります。
- 翌日の授業の最初の5分で、宿題と同じ内容を、AIを使わない小テストで確かめる(事前に予告する)
- 宿題の答えを、授業中に本人に説明させる
- 生徒に伝える。提出できることと、自分で解けることは違う
この工夫は、中高生2.7万人の研究をもとに考えた実践案です。効果を直接検証した研究ではありません。
使わせずに、教える
禁止するのは、生徒がAIを使うことです。AIについて学ぶことは、禁止しません。 むしろ、すぐに始めるべきです。
AIとは何か ― 数学の基礎の上に生まれた
生成AIの中身は、ディープラーニングと呼ばれる技術です。 AIは、言葉を、たくさんの数を並べたベクトルとして扱います。 このベクトルに重みを掛けて足し合わせる計算を、何層も重ねて答えを出します。
学習では、答えのずれが小さくなるように、重みを少しずつ動かします。 どちらへ動かせばずれが小さくなるかを求めるのが、微分です。
高校で学ぶベクトルと微分が、AIの入口です。AIそのものが、数学の基礎を積み重ねた先に生まれました。 基礎を飛ばしてAIに頼ることは、AIの成り立ちとも逆の道です。
なぜ危ないか ― 生成AIリテラシー
「知らない人からのメールは開かない。添付ファイルも開かない」。 学校は、こうしたITリテラシーを教えてきました。生成AIにも、同じ教育が要ります。
ちょっとした使い方は、学校で教えなくても、周りから自然に覚えます。 学校で教えるべきは、安易にAIに頼ると、自分の成長を妨げるということです。 一度ではなく、繰り返し教えます。
教えるときも、生徒にAIを使わせる必要はありません。添付ファイルの危険を、実際に開かせて教えないのと同じです。 先生が実例を見せ、生徒は読んで考えます。
- AIの誤った解答を印刷して配り、誤りの箇所と根拠を生徒に考えさせる
- AIの文章を読まずに社長へ送った社員や、実在しない判例を裁判所に出した弁護士の実例を見せる
- 考えない、読まない、確認しない、の3段階で人が転落することを教える
先生ご自身は、判断できる業務で使う
先生は、AIを使って構いません。条件は、その業務で、出力の良し悪しを自分で判断できることです。 手書きの教材を配布用のプリントに整える、確認テストを作る、といった業務です。
生徒は使わず、先生は使う。矛盾ではありません。 土台ができた人は、判断できる範囲で使う。土台をつくっている人は、使わない。 企業の研修でも、フィネットは同じ線を引いています。
大学生と新社会人も、同じです
酒井教授の論考は、大学での事例を中心に取り上げています。 カリフォルニア大学バークレー校の法科大学院は、単位のための論文課題や試験で、AIの利用をほぼ全面的に禁止しました。
文部科学省は、大学での取扱いを各大学に委ねています。そのうえで、生成AIの出力をそのまま使ってレポートを作ることは 「一般に不適切」としています。
大学生も、社会に出たばかりの新社会人も、まだ土台をつくっている時期です。 生成AIの利用は、禁止すべきです。
資料
- セミナー資料「AIは、生徒の力を伸ばすのか、奪うのか」(2026年10月8日 前橋東高校 先生方向けAIセミナー)
- 研究のまとめ「AIを使ってよいのは、回答の正しさを判断できる人です」
- 酒井邦嘉「教育DXをどう進めるか(上)AI使用の全面禁止が必要」日本経済新聞 2026年9月24日朝刊